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2023-2024年、ザンビア共和国における大規模コレラアウトブレイク対応をふりかえる
第1回 伝わらない危機感ともどかしさ ―大規模アウトブレイクへの準備
2023年10月下旬から12月中旬
2023年10月15日、私たちの働く病院でコレラ患者が確認された3日後に、ザンビア保健省で緊急記者会見が行われ、2023年最初のコレラがルサカ市で確認されたことが発表されました。その直後にはIncident management system(IMS)※1が立ち上がり、毎日の会議が開始され、私たちがプロジェクトを実施する5つの病院にもコレラ治療センターが立ち上がりました。コレラに慣れたザンビアでは、対応もスムーズに思われました。
私たちも、病院のコレラ治療センターにおける感染管理やゾーニング、病院内での患者フローやスクリーニングの支援を開始しました。明らかになったのは、センターに勤務する医療従事者やサポートスタッフの不足、ベッドや点滴台、毛布などの物品やORS(Oral rehydration solution)※2などの消耗品の不足でした。また、一部の一般外来や小児外来で治療にあたる医師は、感度に課題があるコレラ迅速検査で陽性になった症例のみを報告するなど、サーベイランスのための症例定義(下痢の頻度や性状など症候に基づいた定義)に基づく報告がきちんとなされておらず、サーベイランス体制が現場レベルで徹底されていませんでした。
私たちは、州および郡保健局のスタッフと共に病院を訪問し、治療プロトコルのポスターの作成、患者フローやゾーニングの構築、報告の必要な症例定義の周知など現場スタッフへの技術支援を行いました。
プロジェクト対象の病院に設置されたコレラ治療センターのゾーニングを担当する看護師とともに議論し、感染管理の活動を支援
病院にたどり着く前の地域住民のコミュニティにも大きな課題がありました。ザンビアではもともと一部の人々は、医療への信頼が低く、重症にならなければ病院に行こうと思いません。病院への交通手段にも乏しく医療へのアクセスは制限されています。更に住民にはコレラアウトブレイクの情報が伝わっておらず、コレラの予防に対する知識も不十分でした。
そこで私たちは、州および郡保健局のスタッフと共にコミュニティにORP(Oral rehydration point)を設置する支援を行いました。ORPは、地域密着型ボランティア(CBV, Community based volunteer)※3が医療従事者の支援のもとに運営し、コミュニティに近い場所でコレラ患者を早期に発見し、早期に治療を開始し、啓発活動を行う拠点となります。ORPをもっと増やしたいと考えていた頃、国立国際医療研究センターから短期支援のために派遣された駒田謙一医師・秋山裕太郎医師の2名が到着しました※4。両医師も加わり、患者発生の多いホットスポットへのORP設営支援やボランティアへの技術指導を一緒に行いました。
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ボランティアの運営により、経口補水液を提供してコミュニティの活動の拠点となるORP(Oral rehydration point)で、ボランティアへの技術支援
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標識やポスターを作成し、ORP(Oral rehydration point)の設置を支援する法月・秋山両医師
この頃のルサカ郡のコレラ患者数は、週100例、そのうち死亡が10例程度でした(その後、今回のアウトブレイクのピークには、週2500例、死亡は100例に至ります)。それでも人口300万人のルサカでは多い数と認識されず、コレラ患者の発生そのものの珍しくないザンビアではメディアでの報道もほとんどありません。一方、報告される症例は氷山の一角であり、現場は増え続ける患者によって徐々に切迫していきます。このまま雨期に入れば状況がさらに悪化することは確実です。現場の声を州や郡の保健局に上げたとしても、報告数の少なさからか動きが悪く、伝わらない危機感にもどかしさを感じていました。
※1)IMS(Incident Management System)とは、コレラなどの危機に対応し、その影響を緩和し再発を防止するために、部門を乗り越えて効果的かつ体系的に対応する組織体制です。連携、疫学・サーベイランス、水衛生、臨床ケア、ワクチン、リスクコミュニケーション、地域住民の参画などの柱が国レベル、州レベル、郡レベル、病院レベルで立ち上がりました。
※2)ORS(Oral rehydration solution): 経口補水液(ORS)とは、下痢・嘔吐に伴う脱水状態の際に、水分と電解質を口から摂取するための飲料です。コレラは激しい嘔吐と下痢が主体の病気で、1回にバケツいっぱいの下痢が出ることがあり、脱水が原因で死亡に至ります。そのため、ORSは軽症、中等症の治療の中心になります。
※3)地域密着型ボランティア(CBV, Community based volunteer)とは、地域住民から選出される尊敬され信頼されている方達で、地域社会と医療施設との橋渡しをし、必要不可欠なアクセスを確保するために重要な存在です。コミュニティ内で生活しているため、地域の人々や文化を知り、理解しています。
※4)NCGMの派遣:NCGM国際医療協力局の法月医師が現地の状況を報告し、NCGMの国際医療協力局や国際感染症センター等で検討が行われ、駒田医師(国際医療協力局)と秋山医師(国際感染症センター)を派遣、12 月 6 日から9日にかけてコレラ発生地域におけるコレラ対応の活動を行いました。この活動は、NCGMにおける「グローバル健康・医療戦略2020」の趣旨に合致する顕著な貢献を行ったと評価され、2023年度の「グローバル・ヘルスアワード」を授賞しました。
(毎週月曜日に更新予定)